マーケティング予算の15.3%をAIに投入、それでも「準備万端」は3割のみ――2026年CMO調査が示す期待と実態の溝

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2026年に入り、多くの企業が経営の最重要テーマとしてAI活用を掲げるようになりました。しかし、海外の調査会社が相次いで発表している最新データを見ますと、マーケティング部門における投資の拡大と、実際の成果創出との間には、依然として大きな溝が存在していることがわかります。本稿では、米調査会社ガートナー(Gartner)とボストン コンサルティング グループ(BCG)が2026年に公表した最新のCMO(最高マーケティング責任者)調査のデータをもとに、AI活用における「期待」と「実態」のギャップを読み解き、その背景にある構造的な課題について独自の考察を加えてまいります。

ガートナー調査が示す「予算は増えても組織が追いつかない」現実

ガートナーが2026年5月に発表した「2026 CMO Spend Survey」は、北米・英国・欧州のCMOおよびマーケティング責任者401名を対象に、2026年1月から3月にかけて実施された調査です。回答者の多くは年間売上高10億ドルを超える大企業に所属しており、同調査はグローバル企業のマーケティング投資動向を映す重要な指標の一つとされています。

同調査によりますと、CMOはマーケティング予算の平均15.3%をAI関連の施策に配分していると回答しました。さらに70%が「2026年にAIのリーダーになること」を重要な経営目標の一つとして掲げています。しかしながら、実際に成熟したAI対応能力を備えていると回答した企業はわずか30%にとどまりました。残る70%は、社内のマーケティングプロセスがAIの導入・拡大に十分対応できていないことを認めています。

予算そのものについても、楽観視できる状況とは言えません。2026年のマーケティング予算は企業の売上高に対して7.8%と、前年の7.7%からほぼ横ばいにとどまりました。56%のCMOが「2026年の戦略を実行するための予算が不足している」と回答し、54%が人員などのリソース不足を課題として挙げています。ガートナーのアナリストであるユワン・マッキンタイア氏は、「AIの成熟度が、マーケティングのリーダーと後れを取る企業との差を広げ始めている」と指摘したうえで、「CMOは、予算の大幅な拡大がない中で、成長・効率化・変革を同時に求められている」と述べています。

一方で、AI対応力が高いと自己評価した企業の投資姿勢には明確な違いが見られます。これらの企業はマーケティング予算の21.3%をAIに配分しており、マーケティング予算自体も売上高の8.9%と、全体平均の7.8%を上回っています。つまり、AI活用で先行する企業ほど、予算配分の機動性と投資意欲が高いという傾向がうかがえるのです。

BCG調査が示す「エージェント型AI」普及の壁

もう一つ注目すべき調査が、ボストン コンサルティング グループが発表したレポート「How CMOs are Moving Agentic Marketing from Illusion to Reality」です。同レポートは、B2CおよびB2Bの300名のCMOを対象とした世界規模の調査と、50名のマーケティング責任者への詳細なインタビューをもとにまとめられています。

調査結果によりますと、CMOの96%が「AIはマーケティング機能全体の変革を推進している」と考えています。しかし、実際にAIエージェントを活用して機能の重要部分を変革できたと回答した企業は3分の1に満たず、複数のAIエージェントが自律的に連携してキャンペーンを運用できている企業はわずか8%にすぎませんでした。42%は、生成AIを限られたワークフローの中で個別タスクの補助に使うだけにとどまっているとも回答しています。

投資額に関しては、前向きな変化も見られます。今年マーケティングAIに1,500万ドルを超える投資を行ったと回答したCMOは43%にのぼり、前年の28%から大きく増加しました。最大規模の投資を行った企業の41%は、エンドツーエンドのワークフロー統合への支出を大幅に拡大したと回答しています。一方で、投資が明確な収益効果に結びついたと回答したのはB2C企業のCMOで31%、B2B企業では20%にとどまり、投資額と成果の間には依然として大きな距離があることがうかがえます。

BCGのマネージング・ディレクター兼シニア・パートナーであるマーク・アブラハム氏は、「多くのマーケティング組織は、まだこの新しい環境で競争するための体制を整えられていない」と指摘したうえで、「既存のブランドが最初にこれを構築しなければ、エージェント型AIを前提とした新興ブランドがそれを成し遂げてしまうだろう」と警鐘を鳴らしています。同社のローレン・ウィーナー氏も、「エンドツーエンドのエージェント型ワークフローの導入は、マーケティングの運営モデルそのものの根本的な見直しを迫っている」と述べています。

独自考察――AI投資と成果の溝はなぜ埋まらないのか

「AIリーダー」という目標設定そのものが曖昧である

今回の調査群で最も印象的だったのは、70%のCMOが「AIのリーダーになること」を目標に掲げながら、具体的に何を達成すれば「リーダー」と言えるのか、その定義が組織内で共有されていないように見える点だと筆者は考えます。売上への貢献度なのか、業務効率化の度合いなのか、それとも競合との比較における技術的な先進性なのか。評価軸が定まっていない目標は投資の優先順位付けを曖昧にし、結果として「予算は増えるが、何に使えば成功と言えるのかがわからない」という状態を生み出しているのではないでしょうか。成果指標を先に定義してから予算配分を決めるという順序の転換が、多くの組織にとって最初の一歩になるように思われます。

予算の「量」ではなく「配分の質」が成果を左右する

ガートナーの調査で、AI対応力が高い企業ほどマーケティング予算全体に占める比率自体が高い(8.9%対7.8%)という結果は、単純に「AIにお金をかければ成果が出る」という話ではないことを示唆しています。重要なのは、AI予算が既存業務の自動化に使われているのか、それとも新しい顧客体験やビジネスモデルの創出に使われているのかという「配分の質」です。BCGの調査でも、投資額トップ層の41%がエンドツーエンドのワークフロー統合に投資を広げていたことから、単発のツール導入ではなく、業務プロセス全体を再設計する投資の方が成果につながりやすいことがうかがえます。

エージェント型AIの壁は技術でなく「権限設計」にある

複数のAIエージェントが自律的に連携してキャンペーンを運用できている企業がわずか8%にとどまっている背景には、技術的な制約以上に、組織内での「権限設計」の未整備があると筆者は見ています。AIエージェントに予算執行や出稿判断の一部を委ねるには、承認フローやリスク管理の基準を事前に明文化しておく必要がありますが、多くの企業ではこうしたガバナンスの整備が後回しにされているのが実情ではないでしょうか。技術の導入スピードよりも、権限と責任の線引きを決める意思決定の速度の方が、エージェント型AI活用のボトルネックになっている可能性があります。

日本企業にとっての教訓――人材育成への投資が分水嶺になる

BCGの調査では、約80%のCMOがAI活用に向けた人材のリスキリングに多額の投資を行っており、責任あるAIや倫理研修を導入した割合も前年から10ポイント増加したと報告されています。日本企業においても、AIツールの契約や導入そのものに注目が集まりがちですが、実際に成果を左右するのは、現場の担当者がAIの出力を正しく評価し、業務プロセスに組み込めるかどうかという「使いこなす力」ではないかと筆者は考えます。ツール導入予算と人材育成予算を同じ比重で確保できるかどうかが、今後数年の競争力を分ける一つの指標になるように思われます。

中小企業・個人事業主はむしろ「身軽さ」を武器にできる

大企業のCMOが「組織の慣性」や「既存プロセスとの整合性」に苦労している一方で、意思決定の階層が少ない中小企業や個人事業主には、別の可能性があるように思われます。承認フローが複雑でないぶん、小さく試して早く学ぶというサイクルを回しやすく、エージェント型AIのような新しい仕組みも、現場の裁量で試験導入しやすい土台があります。大企業の調査結果をそのまま「AI活用はまだ早い」と受け取るのではなく、自社の意思決定の速さを強みとして捉え直す視点が、規模の小さい事業者にとっては有効な戦略になり得るのではないでしょうか。

2027年以降、投資対効果の開示が競争軸になる

BCGの調査でROIが明確に示せた企業がB2Cで31%、B2Bで20%にとどまったという結果は、裏を返せば「効果を可視化し、説明できる」こと自体が差別化要因になり得ることを意味しています。今後は、AI投資の規模そのものよりも、投資がどのような指標でどれだけの効果を生んだかを社内外に説明できる体制を持つ企業が、採用市場や資金調達の場面でも評価されるようになっていくのではないかと筆者は予想しています。AI活用の「説明責任」を果たせる組織づくりが、次の競争軸になる可能性があります。

まとめ

ガートナーとBCGの最新調査が示しているのは、AI活用への投資意欲と期待の高さに比べて、組織の実行力や成果創出のスピードがまだ追いついていないという、いわば「過渡期」の実態です。マーケティング予算の15.3%がAIに配分される一方で、実際に成熟した対応力を備えている企業は3割にとどまり、自律的なエージェント運用ができている企業はわずか8%にすぎません。この溝を埋めるためには、目標の定義を明確にすること、予算の配分先を既存業務の効率化だけでなく新しい価値創出にも広げること、そして何よりも現場の人材がAIを使いこなせるようにする投資を怠らないことが欠かせないと筆者は考えます。AI活用の巧拙が企業の競争力を左右する時代は、すでに始まっています。今回ご紹介したデータを、自社の現状を振り返るきっかけにしていただければ幸いです。

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