Googleで検索した際に、知りたい情報がページ上部の「AIによる概要」だけで完結してしまい、そのままブラウザを閉じた経験がある方は少なくないのではないでしょうか。2026年に入り、こうした「ゼロクリック検索」の広がりを数値で裏付ける調査結果が相次いで発表されています。
なかでも衝撃的だったのは、SEOツールを提供するAhrefs社が2026年2月に公表した調査です。検索結果で1位に表示されているページであっても、AIによる概要が表示されるキーワードでは、クリック率が平均58%も押し下げられているというのです。日本語圏でも37.8%の押し下げが確認されており、この「ゼロクリック時代」の波は、もはや一部の業界だけの問題ではなくなっています。本稿では、この調査データを軸に、検索流入に依存してきた企業のマーケティング戦略がどのように見直されるべきかを、独自の視点から考察していきます。
検索1位でもクリック率58%減――Ahrefsの30万キーワード調査が示す実態
Ahrefsのコンテンツマーケティング・ディレクターであるライアン・ロー氏が率いたこの調査は、同社のキーワードデータベースから抽出した30万件のキーワードを対象としています。このうち15万件はAIによる概要が表示されるキーワード、残り15万件は表示されない情報収集型キーワードで、Google Search Consoleの月間平均デスクトップクリック率(CTR)を、AIによる概要が導入される前の2023年12月と、導入後の2025年12月で比較する手法が採用されました。
その結果、AIによる概要が表示されないキーワードでも検索1位のCTRは0.076から0.039へと低下していましたが、AIによる概要が表示されるキーワードでは0.073から0.016まで落ち込みました。AIによる概要が無かったと仮定した場合の予測CTR(0.037)と実際のCTR(0.016)を比較すると、押し下げ効果は約58%に達するという計算です。ライアン・ロー氏は、かつて検索1位のページが得ていたクリックのうち、Googleは今その多くを自社の画面内に留めてしまっている、という趣旨の指摘をしています。
この傾向は順位が下がるほど緩和される一方、完全には消えません。Ahrefsが公開した順位別のデータでは、2位で50.8%減、3位で46.4%減、5位で32.6%減、10位でも19.4%減という具体的な数値が示されており、検索結果のどこに表示されていても、AIによる概要の影響から逃れることは難しい実態が浮かび上がります。さらに、この結果はAhrefs単独の見解ではありません。Seer Interactiveは49.4〜65.2%減、Kevin Indig氏は50%超、Authoritasは47.5%減という、それぞれ独立した調査で近い水準の数値を報告しており、複数の調査機関が同じ方向性の結論に達していることが、この変化の信頼性を高めています。
日本における実態とグローバル企業の「流入消失」事例
日本語圏に限定したデータも明らかになっています。前述のAhrefsの調査によれば、日本の検索1位のCTRは、AIによる概要が無い場合の予測値2.9%に対し、実際には1.8%にとどまり、約37.8%の押し下げ効果が確認されました。グローバルの58%と比べるとまだ小さいものの、これは日本語でのAIによる概要の表示率がグローバルほど高くないことが一因とみられ、Ahrefs自身も、日本語での表示が広がるにつれて今後さらに悪化する可能性が高い、と指摘しています。つまり日本の企業にとって、現在の数値はまだ軽い段階に過ぎず、今後1〜2年で欧米と同等の水準に近づいていくことを前提に備える必要があるといえます。
この変化の背景規模も見過ごせません。Googleの「AIによる概要」は月間約20億人が利用していると報告されており、ChatGPTは1日あたり約25億件のプロンプトを処理しているとされます。検索という行為そのものが、リンクをクリックして情報源のサイトを訪れる行動から、AIが要約した答えをその場で受け取る行動へと、構造的に移行しつつあるのです。
実際に大きな打撃を受けた企業の事例として知られるのが、インバウンドマーケティングツールを提供する米HubSpotです。同社は教育コンテンツを中心に広範なSEOコンテンツ資産を築いてきましたが、AIによる概要や生成AI検索の拡大によって、オーガニック検索からの流入を70〜80%も失ったと報じられています。長年にわたり検索エンジンからの流入を前提に設計されてきたコンテンツ戦略が、わずか数年で前提を失う。これは特殊な一社の例外ではなく、検索依存度の高いビジネスモデル全体に共通するリスクとして受け止めるべきでしょう。
独自考察――ゼロクリック時代を生き抜くマーケティング戦略
SEOからGEO・LLMOへ――評価指標のパラダイムシフト
従来のSEO(検索エンジン最適化)は、検索結果で上位に表示されることそのものをゴールとしてきました。しかし今回のデータが示す通り、上位表示されてもクリックされるとは限らない以上、何位に表示されたかという指標の価値は相対的に下がっています。かわって重要性を増しているのが、GEO(Generative Engine Optimization)やLLMO(大規模言語モデル最適化)と呼ばれる考え方です。これは、検索結果のランキングではなく、AIが生成する回答の中に自社の情報が引用・言及されるかどうかを最適化の対象とする発想です。KPIを「クリック数」から「AIの回答内での言及率・引用率」へと置き換える企業が、今後のマーケティング部門で先行者優位を得ると考えられます。
打撃の非対称性――リソースの薄い企業ほど構造的に不利になる
AIによる概要の影響は、すべての企業に平等に及ぶわけではありません。大企業やブランド力のある企業は、指名検索(社名やブランド名そのもので検索される行為)によってAIによる概要を経由せずに直接サイトへ到達する顧客を一定数確保できます。一方、中小企業や新興企業は、こうした指名検索の割合が低く、情報収集型の一般キーワードからの流入に依存する比率が高いため、今回のようなゼロクリック化の影響をより強く受けやすい構造にあります。これは、検索エンジンという中立な集客チャネルだと長らく信じられてきた仕組みが、実質的には大手ブランドに有利な形へと傾いていく変化だと捉えることもできるでしょう。
「引用されるコンテンツ」の設計――構造化データと一次情報の価値
AIが回答を生成する際には、情報源として信頼性が高く、構造が明確なコンテンツが優先的に参照される傾向があります。見出しタグや構造化データ(スキーマ)を適切に実装すること、独自の調査データや一次情報を記事内に盛り込むこと、そして誰が書いたかという専門性・権威性・信頼性を明示することは、従来のSEO対策としてだけでなく、AIに引用したくなるコンテンツとして選ばれるための土台になります。逆に、他サイトの情報を要約しただけの二次的なコンテンツは、AIにとって引用する理由が乏しく、今後は埋没していく可能性が高いと考えられます。
指名検索とブランドエクイティが生き残りの最終防衛線になる
検索エンジンの中間に立つAIが回答を要約してしまう以上、一般名詞的なキーワードでの集客を前提としたビジネスモデルは長期的に脆弱になっていきます。これに対して有効な防衛策の一つが、指名検索、つまりそのブランド名・サービス名でしか検索されない状態をどれだけ作れるかです。SNSでの発信、口コミ、オフラインでの体験、メールマガジンや会員コミュニティといった、検索エンジンを介さない顧客との接点を増やす施策は、AI検索時代においてむしろ重要性を増していると言えます。検索アルゴリズムやAIの仕様変更に左右されない自社で保有する顧客接点をどれだけ持っているかが、中長期的な事業の安定性を左右するでしょう。
広告依存への回帰リスクと、コンテンツマーケティングの再定義
オーガニック流入が細っていく中、短期的な対応として検索広告やSNS広告への予算シフトを選ぶ企業は増えると予想されます。実際、OpenAIがChatGPT上に広告フォーマットを導入する動きも始まっており、AIが新たな広告媒体としての顔を持ち始めています。しかし、広告費への依存を強めるだけでは、コスト構造が悪化するだけで本質的な課題は解決しません。むしろ今後のコンテンツマーケティングに求められるのは、検索されるためではなくAIに正確に理解され引用されるため、さらに検索を経由せずに指名で来てもらうためという、複数の目的を同時に満たす設計への転換です。単一チャネルへの依存度を下げ、複数の顧客接点を組み合わせる体制づくりこそが、これからのマーケティング部門の中心的な課題になっていくと考えられます。
日本語圏の「遅れ」という猶予期間をどう活かすか
日本の37.8%という数値は、グローバルの58%と比べればまだ猶予がある状態だと言えます。しかし、この差は構造的な優位性ではなく、単に日本語環境でのAIによる概要の普及が遅れているだけに過ぎません。欧米市場の変化を見る限り、日本でも同様の変化が数年以内に訪れる可能性は高いでしょう。この猶予期間は、指名検索の獲得、構造化データの整備、一次情報を含むコンテンツへの投資といった中長期的な施策に、今のうちから着手するための準備期間として捉えるべきです。変化が本格化してから対応を始めるのでは、すでに大きく出遅れた状態からのスタートになってしまいます。
まとめ
Ahrefsの調査が示した検索1位でもクリック率58%減という数字は、検索エンジンを軸に築かれてきたこれまでのマーケティングの前提を揺るがす、重要な転換点を象徴しています。日本における37.8%という数値は、まだ本格的な変化の入り口に過ぎず、今後さらに拡大していくと見られます。企業にとって重要なのは、この変化を悲観的に捉えるだけでなく、SEOからGEO・LLMOへと評価軸を広げ、指名検索やブランドエクイティ、構造化された一次情報コンテンツへの投資を今から進めることです。ゼロクリック時代への適応は、もはや一部のテック企業だけの課題ではなく、検索流入に依存するすべての企業にとって避けられない経営課題になっていると言えるでしょう。

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