新卒採用「AIで4割減」は本当か――学生8割不安、企業9割「変わらない」の実態

新卒採用AI調査、企業90.3%が変わらないと回答、学生8割は不安 時事ニュース
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「AIの普及で新卒採用が減る」――そんな見出しを、この一年で何度も目にした方は多いのではないでしょうか。学生の間でも「自分たちの世代は損をするのではないか」という空気が広がっています。ところが、企業側に実際にアンケートを取ってみると、この”空気”とはかなり異なる答えが返ってきました。マイナビキャリアリサーチLabが2026年に実施した複数の調査を突き合わせると、学生の不安と企業の実態のあいだに、無視できない食い違いが浮かび上がります。本記事では、その具体的な数字を確認したうえで、なぜこれほどの乖離が生まれているのかを独自に考察していきます。

企業の9割は「変わらない」――1,579社調査が示す実態

マイナビが2026年1月26日から2月8日にかけて実施した「2027年卒 企業新卒採用予定調査」では、上場107社・非上場1,472社を含む合計1,579社が回答しました。このなかで「AIの浸透によって新卒採用数はどう変化するか」という質問に対し、「変わらない」と答えた企業は90.3%にのぼりました。一方で「減る」と回答した企業はわずか4.0%、「増える」と回答した企業は5.7%です。

つまり、少なくとも数の上では、大多数の企業が新卒採用の”規模”そのものを縮小する計画は持っていないということになります。メディアやSNSでたびたび語られる「AIによる新卒採用消滅論」とは、かなり温度差のある結果と言えるでしょう。

学生の本音――8割が不安、AI面接から51%が”離脱”

一方、学生側の受け止め方はまったく異なります。マイナビの「2027年卒 キャリア意向調査1月」によれば、AIの普及によって将来の働く環境がどう変わるかについて、約8割の学生が不安を感じたことがあると回答しました。具体的な不安の中身を見ると、「やりたい仕事がなくなるのではないか」が41.8%、「企業の採用数が減っていくのではないか」が38.3%と、いずれも4割前後にのぼっています。

さらに、AIの実際の利用体験も学生の意識を揺さぶっています。「2027年卒 大学生キャリア意向調査4月<AI利用について>」(回答者1,258名、2026年4月25日〜30日実施)では、AI利用経験率が84.9%、AIに就活相談をした経験がある学生が47.6%、AI面接を実際に受けた経験がある学生が28.2%という結果になりました。注目すべきは、AI面接を経験した学生のうち51.1%が「その企業への応募意欲が下がった」と回答している点です。「変わらない」とした学生は42.1%にとどまり、AI面接という新しい選考手法そのものが、企業イメージに直結するリスク要因になりつつあることがうかがえます。

前年にあたる2026年卒の学生を対象にした調査でも、AI利用経験者は82.7%と、2年前の39.2%からほぼ倍増しています。就職活動の中でAIを使った学生は66.6%にのぼり、エントリーシートの推敲に使った学生は68.8%、作成そのものに使った学生も40.8%です。利用理由として「作業時間の短縮」を挙げた学生は62.6%でした。AIはすでに就活の”前提”になっているといってよい状況です。

独自考察――「変わらない」と「不安」はなぜこれほど乖離するのか

「変わらない」は数字のマジックである可能性

企業の90.3%が「採用数は変わらない」と答えていることは事実ですが、これは「採用の中身が変わらない」ことを意味しません。同じ調査の周辺データでは、AI活用の現状や将来像について学生に説明していると答えた企業はわずか14.3%にとどまり、「特に意識して伝えていない」とする企業が45.0%にのぼっています。人数という”枠”は維持しつつ、実際に求める人物像や選考基準を静かに変えている企業が相当数存在すると考えるのが自然でしょう。数の維持は、質的な選別強化を覆い隠す言葉になっている可能性があります。

不安が先行する構造――情報格差31.6ポイントの重み

学生側でAIについての説明を求める割合は45.9%であるのに対し、実際に説明している企業は14.3%にとどまり、その差は31.6ポイントに達します。この情報の空白地帯にこそ、不安が育つ土壌があると見るべきです。企業が採用方針を明確に語らない限り、学生はSNSやニュースで流れる「新卒消滅論」のような極端な言説を頼りに将来像を組み立てざるを得ません。データが示す実態よりも、情報が届かないことそのものが不安を増幅させている構図です。

AI面接離脱率51%が突きつける採用ブランドの新変数

AI面接を経験した学生の半数以上が応募意欲を下げているという結果は、企業にとって軽視できないシグナルです。コスト削減や効率化を目的にAI面接を導入した結果、優秀な学生ほど選考途中で離脱してしまうという逆効果を招く可能性があります。今後は「AIをどこまで、どのように使っているか」を学生に丁寧に開示すること自体が、採用ブランディングの重要な要素になっていくと考えられます。

「AIネイティブ世代」と評価基準のミスマッチ

AI利用経験が8割を超える学生たちは、AIを使いこなす能力そのものをすでに”当たり前のスキル”として捉えています。しかし企業側の選考基準が旧来のガクチカ(学生時代に力を入れたこと)重視のままであれば、学生が磨いてきた能力と企業が評価する能力のあいだにミスマッチが生じます。AIを使って効率的に自己分析やES作成を行う学生を「主体性がない」と誤って評価してしまう企業も、今後は一定数出てくるのではないでしょうか。

中長期で問われる「説明責任コスト」

短期的には、AI活用の方針を説明しなくても採用活動は成立するかもしれません。しかし情報格差を放置したまま数年が経過すれば、入社後のミスマッチや早期離職という形で、企業側が”説明を怠ったコスト”を後から支払うことになりかねません。逆に言えば、今の段階で学生にAI活用の実態を丁寧に説明できる企業は、他社との差別化材料を先取りできる立場にあるとも言えます。

企業が今すぐ着手できる三つの具体策

情報格差を放置しないために、企業がすぐに実行できる打ち手は決して大がかりなものばかりではありません。第一に、選考プロセスのどこにAIを使っているか(書類選考の一次スクリーニング、面接の録画分析など)を採用ページや説明会で明示することです。第二に、AI面接を導入する場合は「なぜ導入したのか」「合否にどう影響するのか」を事前に学生へ伝え、ブラックボックス感を減らすことです。第三に、AIによって浮いた工数を人事担当者と学生が直接対話する時間に再配分し、”数を維持しながら質を上げる”という企業側の意図そのものを学生に体験してもらうことです。いずれもコストをかけずに始められる施策であり、情報格差31.6ポイントのうち、相当部分はこうした地道な発信で縮小できるはずです。

まとめ

「AIで新卒採用が4割減る」という言説は、少なくとも2026年時点の企業アンケートの数字だけを見れば、実態を正確に反映したものとは言えません。企業の9割は採用数を「変わらない」としており、明確に「減る」と答えたのは4.0%にとどまっています。一方で、学生の8割はAIによって将来の働く環境が変わることに不安を感じており、AI面接を経験した学生の半数以上が応募意欲の低下を経験しています。

この食い違いの根っこにあるのは、AIの是非そのものよりも、企業が自社のAI活用方針をどれだけ言葉にして学生に伝えているかという、情報開示の姿勢の差ではないでしょうか。数字が「変わらない」と語っていても、そこにどんな中身の変化があるのかを説明しない限り、学生の不安は解消されません。

今後の新卒採用市場を占ううえで注目すべきは、採用人数の増減以上に、この情報格差がどこまで埋まっていくかという点だと言えそうです。「AIで新卒採用が減る」という単純化された言説に振り回されるのではなく、学生側も企業側も、まずは互いの実態を数字とともに確認し合うことが、これからの就職活動と採用活動の両方にとって欠かせないステップになるのではないでしょうか。

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