スクエアスペース300人削減、全従業員の19%が対象――AI新機能「Forma」発表と重なった人員再編の衝撃

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2026年11月、米ウェブサイト制作サービス大手のスクエアスペース(Squarespace)が、全従業員の19%にあたる約300人の人員削減を発表したことが明らかになりました。同社の最高経営責任者(CEO)であるアンソニー・カサレナ氏は社内メモで、削減の理由を「より小さなチーム編成と、シンプルな組織構造への転換」と説明しています。

一方で、この発表とほぼ同じタイミングで、同社はAIを活用した新しいウェブサイト・アプリ制作機能「Forma」を打ち出しており、両者の関係について業界内外で様々な見方が交錯しています。さらに、オンラインストレージサービスのDropboxも同時期に全従業員の約9%、500人規模の人員削減を発表し、AI分野への投資シフトを明言しました。今回は、この2つの事例を手がかりに、AI時代のSaaS企業で進む人員再編の実態と、その先にある影響について詳しく見ていきます。

スクエアスペースが発表した300人削減の内容

具体的な数字を整理します。スクエアスペースの発表によれば、削減対象は全従業員約1,800人のうち、19%にあたる約300人です。削減の中心となったのは、プロダクト部門とエンジニアリング部門であり、同社の事業の中核を担う技術系人材が主な対象となりました。

カサレナ氏のメモでは、退職する従業員への対応として、基本給の16週分以上に勤続年数に応じた追加の補償を支払うこと、福利厚生を2027年5月まで継続すること、会社支給のノートパソコンをそのまま持ち帰ってよいこと、就労ビザで働く従業員には継続的なサポートを提供することなどが明記されています。大規模な削減でありながら、比較的手厚い退職条件を用意している点は注目に値します。

スクエアスペースは2004年、カサレナ氏が大学の寮の一室で創業した会社です。ドラッグ&ドロップ操作で誰でも本格的なウェブサイトを作成できるサービスとして成長し、2021年にニューヨーク証券取引所に上場しました。しかし2024年、投資ファンドのパーミラ(Permira)が約69億ドルで買収することに合意し、同年10月に取引が完了、非公開企業として再出発しています。買収からわずか2年での大規模な人員削減は、非公開化後の経営方針の転換を強く印象づける出来事となりました。

Dropboxも500人削減――SaaS業界に広がる「AIシフト型リストラ」

スクエアスペースと同じタイミングで話題になったのが、Dropboxの人員削減です。同社は2026年10月、全従業員の約9%にあたる500人規模の削減を発表するとともに、最高技術責任者(CTO)の退任も明らかにしました。Dropboxは削減の理由について、AI領域への投資を加速させるための組織再編であることを、比較的明確に説明しています。

両社に共通するのは、「人を減らしながら、AIに資源を集中させる」という経営判断です。これまでSaaS企業の多くは、機能追加やサポート体制の強化のために人員を増やすことで成長を実現してきました。しかし、生成AIが文章作成やデザイン、簡易的なコーディングといった業務を低コストで代替できるようになったことで、同じ成長を少人数で実現できる、あるいは実現せざるを得ない状況に変わりつつあります。

特にウェブサイト制作の領域では、数行の指示を与えるだけでデザイン・構成・文章までを自動生成するAIサービスが急速に普及しています。これにより、Wix、GoDaddy、Shopifyといった競合サービスを含む業界全体で、従来型の「テンプレートを選んでカスタマイズする」というビジネスモデルの価値そのものが問われる状況になっています。

独自考察――AIシフト型リストラの実態と、その先にあるもの

なぜ企業は「AIとの関連」を否定するのか

興味深いのは、スクエアスペースがこの削減とAI新機能「Forma」の関係について、明確な結び付けを避けている点です。筆者はこの背景に、企業側の複数の思惑があると考えます。第一に、AIによる人員代替を公に認めることは、残る従業員の士気を大きく損なうリスクがあります。第二に、労働法や雇用関連の規制の観点から、削減理由を「AI代替」と明言することは、地域によって法的リスクを高める可能性があります。第三に、ブランドイメージの観点からも、「人を切ってAIに置き換える会社」という評価は、クリエイティブ産業との関わりが深いスクエアスペースのような企業にとって、顧客離れにつながりかねません。そのため、多くの企業は「組織の簡素化」「より機動的な体制づくり」といった、より中立的な言葉を選んでいるのだと筆者は見ています。

「代替される仕事」と「残る仕事」の境界線

今回の削減がプロダクト部門とエンジニアリング部門に集中したことは、象徴的だと筆者は考えます。AIが得意とするのは、既存のパターンを学習し、一定の品質で高速に再現する作業です。ウェブサイトのレイアウト設計や基本的な実装、定型的なコーディングといった業務は、この「パターンの再現」に近い性質を持っています。一方で、カサレナ氏のメモにあった「player coaches(現場で手を動かしながらチームを導く人材)」という表現が示すように、複数の役割を横断して判断を下せる人材や、事業全体の方向性を決める人材の価値は、むしろ高まっていると筆者は考えます。つまり今回の再編は、単純な「人員削減」ではなく、「量を担う人材」から「質と判断を担う人材」への重心移動と捉えるべきでしょう。

日本のウェブ制作会社・フリーランスへの影響

この動きは、米国企業だけの話ではないと筆者は考えます。日本国内にも、中小企業向けにウェブサイト制作を手がける制作会社や、個人で活動するウェブデザイナー・フリーランスが数多く存在します。AIによるウェブサイト自動生成サービスが普及すればするほど、数万円から数十万円程度でシンプルなサイトを作成するという価格帯の仕事は、確実に縮小していくと筆者は予測します。この価格帯はすでに海外の低価格AIサービスとの競争にさらされつつあり、今回のスクエアスペースの動きは、その競争がさらに激化することを示す先行指標と捉えるべきです。生き残る道としては、単なる「サイトを作る」という作業から、クライアントの事業課題を理解し、集客戦略やブランディングまで踏み込んで提案できる「コンサルティング型」の制作会社への転換が、これまで以上に重要になってくると考えられます。

マーケティング担当者が今、見直すべきツール戦略

マーケティング部門の視点では、今回の一連の動きを「使っているSaaSツールの将来性」を見直すきっかけにすべきだと筆者は考えます。人員削減を行った企業が提供するサービスであっても、サポート体制の質やレスポンスの速さが一時的に低下する可能性は否定できません。契約しているツールの提供企業がどのような経営判断を下しているのかを定期的に確認し、必要であれば複数のサービスを並行して検証しておくことは、事業継続性の観点からも有効なリスク管理になります。また、AI機能の強化が進む一方で、既存の有料プランの価格体系が変更される可能性もあるため、契約更新のタイミングでは条件の再確認をおすすめします。

「AIシフト型リストラ」が広がる条件

筆者は、今回のような「人を減らしてAIに資源を集中させる」という経営判断が広がりやすい業界には、一定の共通条件があると分析しています。具体的には、業務の多くが定型化・パターン化しやすいこと、競合サービスとの機能差が縮まりやすく価格競争にさらされやすいこと、非公開化や投資ファンドの傘下にあるなど短期的な収益改善への圧力が強い経営体制であること、の3点です。スクエアスペースはこの3条件をほぼすべて満たしており、今後も同様の条件を持つ企業では、同じパターンの再編が起きやすいと見ておくべきでしょう。

まとめ

今回取り上げたスクエアスペースとDropboxの事例は、生成AIの進化が、単なる「業務効率化の道具」から「人員構成そのものを変える要因」へと、確実に変わりつつあることを示しています。企業側が人員削減とAI活用の関係を明確に語らないケースは今後も増えると考えられますが、その裏側にある構造変化を正しく読み解くことは、ウェブ制作に関わる事業者やマーケティング担当者にとって、今後の事業戦略を考えるうえで欠かせない視点になるはずです。本稿で紹介した動きを一つの参考情報として、ご自身の業務やサービス選定の見直しに役立てていただければ幸いです。

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