マーケティング完全内製化、希望は10.9%のみ――303人調査に見るAI時代の「賢い外注」戦略

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生成AIの普及に伴い、多くの企業がマーケティング業務の内製化を進めています。「AIを活用すれば、人手をかけずに戦略立案から実行までを自社で完結できるのではないか」という期待は根強く、実際に内製化へと舵を切る企業も増えているようです。しかし、株式会社メンバーズが2026年7月6日から9日にかけて実施した調査では、この期待とは裏腹な実態が明らかになりました。従業員1,000人以上の企業でマーケティング業務に携わる課長職以上303人を対象にした調査によると、内製化を何らかの形で取り入れている企業は79.2%にのぼる一方で、「すべての業務を内製で完結させたい」と考えている人はわずか10.9%にとどまったのです。本記事では、この調査データをもとに、AI時代におけるマーケティング組織の内製・外注バランスの実態と、その背景にある構造的な課題について独自の視点から考察します。

マーケティング内製化はどこまで進んでいるのか――303人調査が示す実態

同調査によれば、生成AIを活用したマーケティング組織運営において企業が最も重視する方針は「AIを活用した業務の効率化」で64.7%、次いで「ノウハウや知識の形式知化・蓄積」が51.2%という結果になりました。この2つの回答が突出して高く、AI導入の目的が単なるコスト削減にとどまらず、組織としての知的資産の蓄積にも向けられていることがうかがえます。

体制面では、「自社社員中心(内製主導)」と回答した企業が50.5%、「上流内製・下流外注」が28.7%で、両者を合わせると内製を何らかの形で取り入れている企業は79.2%に達しました。ただし、内製化の度合いは業務の性質によって大きく異なります。戦略立案など上流の「戦略企画系」業務の平均内製率は68.5%である一方、実行・運用を担う「実行運用系」業務は35.8%にとどまり、倍近い開きが見られました。

さらに個別の業務項目を見ると、その差はより鮮明になります。「ビジネスゴール定義・課題仮説設定」の内製率は82.5%と全項目中最も高く、「実行計画策定」も78.5%と高水準です。一方、「Web広告運用・SEO対策」はわずか16.2%、「Webサイト制作・改善」も17.8%、「クリエイティブ制作」は20.5%と、実務寄りの専門領域では外部リソースへの依存が依然として色濃く残っていることが分かります。

「完全内製化」を望むのはわずか1割――理想と現実のギャップ

興味深いのは、現状の体制と「理想の体制」との間に横たわるギャップです。調査では「全業務を内製で完結させたい」と回答した割合はわずか10.9%にとどまり、残る88.8%は「理想の体制であっても何らかの形で外部の力を活用したい」と答えています。つまり、内製化を進めている企業であっても、その多くは完全な自前主義を目指しているわけではないということです。

その背景には、外注活用における課題も影響していると考えられます。調査では、外注領域のうち「データ・テクノロジー基盤」において、「成果物の品質が安定している」と感じている割合は31.5%と最も高い項目でしたが、裏を返せば約7割は品質の安定性に確信を持てていないことになります。また「自社へのノウハウ蓄積」は32.8%、「業務プロセスの把握」は30.2%にとどまり、外注先に依存する形になりがちな構造的な課題が浮き彫りになっています。

つまり企業は、内製化を進めたいという意欲と、外部の専門性やリソースを手放せないという現実的な制約との間で、常にバランスを取ろうとしていると言えるでしょう。この綱引きこそが、「内製率79.2%」と「完全内製化希望10.9%」という一見矛盾するふたつの数字を同時に成立させている構造だと考えられます。

独自考察――なぜ「完全内製化」は理想像になり得ないのか

AIがもたらしたのは「実行の民主化」であり「戦略の民主化」ではない

今回の調査結果を読み解くうえで最も重要な補助線は、内製率の「上流と下流の非対称性」です。「ビジネスゴール定義」が82.5%と極めて高い内製率を維持している一方で、「Web広告運用・SEO対策」はわずか16.2%にとどまっています。この差は、生成AIがマーケティング業務のどこに影響を及ぼしているかを如実に示していると考えられます。生成AIツールの普及によって、広告文の量産やレポーティングの自動化、SEOの技術的な最適化といった「実行系」の作業は、専門知識がなくてもある程度の水準までこなせるようになりました。その結果、こうした業務を専門ベンダーに委ねることへの心理的なハードルはむしろ下がっていると見ることができます。一方で、自社の事業目標や顧客理解、経営方針といった文脈に深く根ざす「戦略系」の意思決定は、AIがどれだけ進化しても外部に委ねにくい領域として残り続けています。AIが民主化したのは実行のノウハウであって、戦略的判断そのものではないという構図が、今回のデータから浮かび上がってきます。

内製率のグラデーションが示す「暗黙知」と「形式知」の分水嶺

内製率の高低は、業務に含まれる知識が「暗黙知」寄りか「形式知」寄りかという軸でも説明できると考えられます。SEOの技術的な手法や広告運用のノウハウは、業界標準のフレームワークやツールの操作手順としてある程度言語化・体系化されており、外部の専門会社でも一定の再現性を持って提供しやすい領域です。これに対して、自社の事業ゴールの設定や価格設計といった業務は、社内の力関係や過去の意思決定の経緯、暗黙のうちに共有された前提知識など、外部からは見えにくい文脈情報に強く依存します。生成AIは形式知を扱うことには長けていますが、暗黙知そのものを外部から代わりに獲得することはできません。今回の調査で戦略系の内製率が高止まりしているのは、AIの性能の限界というよりも、暗黙知を必要とする業務の性質そのものが変わっていないためだと解釈するのが自然でしょう。

「ノウハウ資産化」への不安が外注忌避感を生む構造

AI活用方針として「ノウハウや知識の形式知化・蓄積」を重視する企業が51.2%にのぼったことも見逃せません。これは裏を返せば、多くの企業が外注によるノウハウの社外流出、あるいは自社内にノウハウが蓄積されないことへの不安を強く抱いていることの表れだと考えられます。外注先に業務を任せきりにすると、成果物は得られても、なぜその成果物に至ったかというプロセスやその背後にある思考の型は自社に残りません。調査でも「自社へのノウハウ蓄積」を課題として挙げる回答が3割強にのぼっており、企業が外注そのものを否定しているわけではなく、外注の「設計」に不満を持っている実態がうかがえます。今後は、成果物の納品だけでなく、意思決定の過程や判断基準をドキュメント化して共有することを外注契約の前提条件とするなど、ノウハウの資産化を仕組みとして組み込む工夫が一段と重要になっていくと考えられます。

AIエージェント時代のベンダーの役割変化――「作業代行」から「専門知の供給源」へ

生成AIエージェントが実行業務を自動化していく流れの中で、外部ベンダーに求められる役割そのものも変化していくと見られます。従来のベンダーの価値は、人手が足りない作業を代わりにこなす「作業代行」にありました。しかしAIが定型的な実行タスクの多くを担えるようになると、単純な作業代行としてのベンダーの存在意義は相対的に薄れていきます。その代わりに重みを増すのが、最新のAIツールやモデルの特性を深く理解し、業界横断で得た知見をもとに最適な活用方法を設計できる「専門知の供給源」としての役割です。変化の速いAI関連ツールのすべてを自社で追いかけ続けるのは現実的ではなく、多くの企業が外部パートナーとの連携を望むという今回の88.8%という結果は、実務代行への依存ではなく、こうした専門性への依存へと外注の意味合いがシフトしつつあることの表れだと考えられます。

日本企業特有の「人材流動性の低さ」が内製化議論に落とす影

内製・外注のバランスを考えるうえでは、日本企業に特有の雇用慣行も無視できない要因だと考えられます。欧米企業と比較して人材の流動性が低い日本企業では、特定の専門スキルを持つ人材を必要な期間だけ機動的に確保することが難しく、需要が変動しやすい実行・運用系の業務については、正社員としての内製化よりも外部パートナーとの柔軟な契約関係のほうが合理的だと判断されやすい傾向があります。一方で、事業戦略に関わる意思決定は、その企業に長く在籍し続ける正社員が担うべき業務だという考え方が根強く残っています。今回の調査で戦略系の内製率が高く、実行系の内製率が低いという結果は、AI活用の巧拙だけでなく、こうした日本的な雇用構造がベースにあることも踏まえて読み解く必要があるでしょう。

「課長職以上」への調査という視点から見える組織的合意形成の課題

最後に、今回の調査対象が課長職以上のマネジメント層であった点にも注目したいところです。回答者はいずれも組織運営や予算配分に一定の裁量を持つ立場にあり、外注先との契約関係や体制設計を実際に検討する当事者だと言えます。そのため今回明らかになった「完全内製化を望むのは10.9%」という数字は、現場の実務担当者の希望というよりも、組織運営の責任を負う層が下した現実的な判断の集積だと捉えるのが妥当でしょう。一方で、現場の実務担当者が同じ質問にどう答えるかは別の調査課題として残ります。AI活用の方針を組織として一枚岩にしていくためには、マネジメント層の判断と現場の実感とのすり合わせが今後ますます重要になっていくと考えられます。

まとめ

今回取り上げたメンバーズの調査からは、生成AIの普及がマーケティング業務の内製化を一様に加速させているわけではないという実態が見えてきました。内製を取り入れている企業は79.2%に達する一方で、「完全内製化」を理想とする企業はわずか10.9%にとどまり、88.8%が何らかの形で外部リソースの活用を望んでいます。戦略系業務の内製率が68.5%、実行系業務の内製率が35.8%という非対称な結果は、AIが実行業務の敷居を下げた一方で、文脈依存性の高い戦略的判断までは代替できていないことを示しています。

今後企業に求められるのは、内製と外注のどちらか一方を選ぶという発想ではなく、業務の性質に応じて内製と外注を使い分けながら、外部に委ねた業務からもノウハウを資産として蓄積していく仕組みを設計することだと考えられます。AIエージェントが実行業務の自動化をさらに進める中で、外部パートナーに求められる役割も「作業代行」から「専門知の供給源」へと変わりつつあります。自社のマーケティング組織にとって最適な内製・外注のバランスがどこにあるのか、今回のデータを一つの手がかりとして見直してみてはいかがでしょうか。

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