TSMC純利益68.7%増で六期連続の最高益、サムスンも9倍増益予想――AI半導体「狂騰」の裏で株価が下落する理由

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AI向け半導体への需要は、2026年に入ってもなお拡大を続けています。2026年10月15日に発表されたTSMC(台湾積体電路製造)の第3四半期決算は、純利益が前年同期比68.7%増という驚異的な水準に達し、通期の売上成長見通しも年初の「30%超」から段階的に引き上げられ、今回は約44%にまで上方修正されました。同じ時期、サムスン電子もHBM(広帯域メモリ)の需要急増を背景に、営業利益が前年比ほぼ9倍に達するとの見通しを公表しています。半導体業界全体がAI投資の恩恵を受けている構図が、数字の上で改めて裏付けられたと言えます。ところが、記録的な好決算にもかかわらず、両社の株式はいずれも決算発表後に売られる展開となりました。本記事では、最新の決算データを整理した上で、好決算と株価下落が同時に起きるという一見矛盾した現象の背景を考察してまいります。

TSMC、第3四半期も記録更新――「需給ギャップはまだ非常に大きい」

TSMCが2026年10月15日に発表した第3四半期決算によると、売上高は467.2億ドル(台湾ドルベースでは1兆4,940億台湾ドル、前年同期比50.9%増、前期比17.6%増)となり、7月時点のガイダンス上限(458億ドル)を上回りました。純利益は763.06億台湾ドルで前年同期比68.7%増、希薄化後1株当たり利益は29.43台湾ドルです。粗利益率は66.4%、営業利益率は58.7%、純利益率は51.1%、ROEは45.5%という高水準を記録し、フリーキャッシュフローは前年同期の3倍超となる476.56億台湾ドルに達しました。

事業別では、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)分野が全売上の68%を占め、前期比22%増という伸びを示しました。この分野にはAIアクセラレータに加え、関連プロセッサやネットワーク向け半導体が含まれます。CEOのC.C. Wei氏は、需要と供給の差について「still quite big(依然として非常に大きい)」と述べ、需要の広がりがAIアクセラレータ単体から、エージェント型AI向けのCPUやネットワーク半導体にまで拡大していると説明しました。これを受けてTSMCは、2nm世代の年間生産能力を2027年に倍増以上に引き上げる計画を明らかにしています。第4四半期の売上高ガイダンスは523億〜543億ドルで、中間値は前期比約14%増、前年同期比では約58%増という、同社にとって過去最強水準の見通しとなりました。一方で2026年通期の設備投資は600億〜640億ドルの規模が見込まれており、第3四半期単体でも138億ドルが投じられています。通期の売上成長見通しは、1年前の「20%台半ば」から、年初の「30%超」、7月の「40%強」、そして今回の「約44%」へと、四半期を追うごとに上方修正が続いている点が特徴的です。

サムスンも営業利益9倍増予想――HBM争奪戦が映す「メモリ版AIブーム」

TSMCと並ぶもう一つの事例が、サムスン電子です。同社が2026年10月8日に公表した第3四半期の業績見通しによると、営業利益は107兆4,000億ウォン(約801.7億ドル)に達し、テクノロジー企業としての四半期営業利益では過去最高になる見込みです。これは市場予想(LSEG集計の平均106.1兆ウォン)をやや上回る水準であり、前年同期からはほぼ9倍という大幅な増益となります。売上高の見通しは195兆ウォンで、前年同期比127%増です。利益改善の主因はHBM(広帯域メモリ)をはじめとするメモリ半導体で、AI向けのHBM需要が供給を上回る状況が続いていることが背景にあります。ただし、調査会社TrendForceによると、汎用DRAMの契約価格は第4四半期に前期比10〜15%の上昇が見込まれており、第2四半期の約60%上昇に比べると上昇ペースは鈍化する見通しです。サムスンの第4四半期の利益成長も、前期比8.2%増と予想されており、第3四半期の前期比約20%増から伸びが鈍化すると見込まれています。詳細な決算発表は10月29日に予定されています。

独自考察――記録的増益と株価下落が同時に起きる市場心理の構造

「好決算ショック」はなぜ起きるのか――期待のインフレと現実のギャップ

TSMCの決算は、売上・利益ともに市場予想やガイダンス上限を上回る内容でした。それにもかかわらず、発表後にはニューヨーク市場のADRが約2.4%下落し、台湾市場でも売りが優勢となりました。背景として指摘されているのが、2nm世代の量産立ち上げ初期にかかる歩留まりとコストの問題が、第4四半期以降の利益率を圧迫しかねないという懸念です。つまり市場は、すでに公表された「過去」の決算そのものよりも、今後数四半期にわたる利益率の推移という「未来」の変数を先取りして評価していることになります。四半期ごとに上方修正が続く通期見通しは、裏を返せば「次はさらに上回って当然」という期待のインフレを招きやすく、どれほど高い成長率を実現しても、投資家の期待をわずかに下回った瞬間に失望売りへ転じるという構造的な脆さを抱えていると考えられます。

集中リスクという静かな火種――HPC依存・顧客集中・地政学

TSMCの決算資料が自ら認めている通り、HPC分野への売上依存度は過去最高の水準に達しています。さらに主要顧客は少数の米国テクノロジー企業に集中しており、最先端の生産拠点は台湾に偏在したままです。AI投資というテーマが一本調子で拡大している間はこの集中度が成長エンジンとして機能しますが、裏を返せば、特定顧客の投資方針の変化や地政学的な緊張の高まりが、業績全体に即座に波及しかねない構造でもあります。関税政策や米中の技術対立、中東情勢に伴うエネルギー・物流コストの上昇が懸念材料として挙げられている点も、好決算の陰に隠れがちなリスクとして注視する価値があります。

ハイパースケーラーの投資が止まれば、半導体業界全体が止まる

TSMCの成長の大半は、AIアクセラレータ向けの先端ノード需要によってもたらされています。この需要の源泉をたどれば、最終的にはMicrosoft、Google、Amazonといった大手クラウド事業者(ハイパースケーラー)によるデータセンター投資に行き着きます。現在の44%という成長見通しは、こうした巨大投資が今の勢いのまま続くことを前提にした数字です。仮にハイパースケーラー各社が資本効率を重視する姿勢に転じ、データセンター投資のペースを緩めれば、半導体の受注動向はきわめて短い期間で変化する可能性があります。好決算の数字そのものよりも、発注元となる数社の投資方針こそが、業界全体の先行指標として最も重視されるべき変数だと言えるでしょう。

メモリ業界の追い風にも潜む「価格鈍化」のシグナル

サムスンの9倍増益予想は、一見するとAI需要の強さを証明する決算に見えます。しかし、DRAMの契約価格上昇率が第2四半期の約60%から第4四半期には10〜15%へ大きく鈍化するという予測、そしてサムスン自身の利益成長率が前期比約20%から8.2%へ減速するという見通しは、供給サイドの増産が需給ギャップを徐々に埋め始めている可能性を示唆しています。需要そのものが衰えていなくても、価格上昇ペースの鈍化という形で市場の過熱感が和らぎ始めている点は、メモリ業界の次の転換点を見極める上で重要な手がかりになると考えられます。

増産という賭け――2nm世代倍増計画の両面性

TSMCが2nm世代の生産能力を2027年に倍増以上へ引き上げる計画は、「需要が供給を上回り続ける」という前提に立った積極的な投資判断です。需要が見通しどおりに拡大を続ければ、この増産投資は競争優位を一段と固める効果を持ちます。しかし、AI投資のペースが仮に鈍化した場合には、積み上げた生産能力がそのまま過剰設備として利益率を圧迫するリスクに転じます。好決算の裏で株価が売られたという現象は、まさにこの「増産という賭け」の結果がまだ確定していないことを、市場が敏感に意識していることの表れだと見ることができます。

2026年末に問われるのは「今の利益」ではなく「来年の需要曲線」

TSMCとサムスンという、AI半導体サプライチェーンの両端に位置する2社の決算が示しているのは、AI投資ブームが生み出す利益の規模そのものよりも、その成長カーブが来年以降も維持されるかどうかという、より長期の問いに市場の関心が移っていることです。四半期ごとの増益率や上方修正のニュースだけを追っていると、好決算と株価下落という組み合わせは一見不可解に映ります。しかし、ハイパースケーラーの投資継続性、2nm世代の歩留まり、メモリ価格の鈍化という複数の先行指標を重ね合わせれば、市場が「今の利益」の大きさではなく「来年の需要曲線」の形を評価しようとしていることが見えてきます。2026年末から2027年にかけては、この需要曲線が緩やかに巡航するのか、あるいは踊り場を迎えるのかが、AI半導体ブームの持続性を測る最大の論点になるとみられます。

まとめ

TSMCは2026年第3四半期に純利益68.7%増という記録的な決算を発表し、通期の売上成長見通しを約44%へ再び上方修正しました。サムスンもHBMメモリ需要を背景に営業利益がほぼ9倍に達する見通しを示しており、AI向け半導体需要の強さは数字の上で改めて裏付けられています。しかし両社の株式はいずれも決算後に売られ、2nm世代の立ち上げコストやメモリ価格上昇ペースの鈍化といった、将来の利益率に関わる懸念が株価に反映される形となりました。好決算と株価下落が同時に起きるという現象は、市場がもはや四半期ごとの増益率そのものではなく、ハイパースケーラーの投資継続性を含めた「来年以降の需要曲線」を評価軸に据えていることを示していると言えそうです。

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