2026年8月、消費者の購買行動に関する興味深い調査結果が相次いで発表されました。日本ダイレクトマーケティング学会が2026年7月15日から16日にかけて実施した調査によると、生成AIの回答を「信頼できる」と答えた人は33.4%にのぼり、SNS上のレビューを信頼すると答えた19.1%を大きく上回りました。さらに、博報堂買物研究所が2026年2月に実施した2万人規模の調査でも、生成AIの回答を信頼する人の割合は51.7%に達し、ECサイトのレビュー(48.6%)や一般人によるSNSレビュー(41.5%)を上回るという、同じ方向性の結果が示されています。長年「買う前に検索してレビューを読む」ことが当たり前だった消費行動が、いま静かに、しかし確実に変化しつつあるようです。本記事では、これら最新の調査データをもとに、生成AIが消費者の購買行動に与えている影響と、その背景にある要因について整理し、独自の視点から考察していきます。
生成AIの信頼度がSNSを逆転――日本ダイレクトマーケティング学会調査が示す実態
日本ダイレクトマーケティング学会が実施した調査は、生成AIの活用経験がある20代から60代の男女1,009人を対象に、インターネット調査(PRIZMA)によって行われました。調査結果によると、購買における生成AIの信頼度は33.4%であり、SNSの19.1%を14.3ポイント上回っています。利用されている生成AIサービスの内訳を見ると、ChatGPTが68.9%でトップとなり、Geminiが52.3%、Copilotが24.7%と続いています。
年代別の活用状況にも顕著な差が見られます。20代では約70%が日常的に購買時に生成AIを活用していると回答した一方、60代では約40%にとどまりました。具体的な利用方法としては、Google検索の「AI概要」を参照する使い方が46.1%と最も多く、次いで特定の商品についてAIに相談する使い方が28.6%、おすすめ商品を尋ねる使い方が26.8%となっています。
興味深いのは、生成AIの活用によって従来の情報収集行動そのものが減少している点です。調査では「検索回数が減った」と回答した人が34.2%、「サイトを回遊・閲覧する時間が減った」と回答した人が28.6%、「購買を迷う時間が減った」と回答した人が27.0%にのぼりました。生成AIが単なる情報源の一つではなく、購買プロセスそのものを短縮する役割を担い始めていることがうかがえます。ただし課題も残っており、「価格情報が不正確だった」との回答が24.5%、「仕様や機能の情報に誤りがあった」との回答が20.5%あり、精度面への懸念も同時に存在しています。
博報堂「AIショッパー」調査に見る業界動向――2万人データが裏付ける傾向
同様の傾向は、より大規模な調査でも確認されています。博報堂買物研究所が2026年2月に実施した全国20〜69歳の男女2万人を対象とする調査では、生成AIの回答を信頼すると答えた人が51.7%にのぼり、ECサイトのレビュー(48.6%)、一般人によるSNS上のレビュー(41.5%)をいずれも上回りました。調査手法もサンプル数も異なる二つの調査で同じ方向性の結果が得られたことは、これが一時的な現象ではなく、構造的な変化である可能性を示唆しています。
同調査では、生成AIの利用者は全体の約24.6%、すなわち4人に1人にのぼり、そのうち40%以上が週1回以上の頻度で利用を継続しているとされています。利用目的としては、専門用語やスペックの解説を求める使い方が66.6%、複数商品の性能比較が64.7%と、いずれも「情報の整理」を目的とした利用が中心です。さらに、購入の決断そのものをAIに委ねたいと回答した人が60.0%に達し、買い物にかかる時間が「減った」と回答した人が28.9%、購入への納得感が「増えた」と回答した人が34.9%となりました。単なる情報収集の補助を超え、意思決定の一部をAIに委ねる消費者が着実に増えていることが読み取れます。
独自考察――「AIが選ぶ時代」に企業とマーケターが向き合うべきこと
情報の「編集」から「対話」への転換が生む安心感
従来の検索エンジンやSNSでは、ユーザー自身が複数の情報源を比較し、取捨選択する作業が求められてきました。これに対して生成AIは、質問に応じて情報を要約・整理し、対話形式で提示します。この「編集された情報を対話で受け取る」という体験が、ユーザーにとっての心理的な負荷を下げ、結果として信頼感の醸成につながっている可能性があります。SNSのレビューが「誰が書いたか分からない不特定多数の意見」であるのに対し、生成AIとの対話は「自分の質問に個別に答えてくれた」という実感を伴いやすく、この一対一のやり取りの感覚が、信頼度の逆転という数字に表れているのではないでしょうか。
アルゴリズムの不透明さより「対話の透明性」が効いている
SNSのレビューやランキングは、投稿者の意図やアルゴリズムによる表示順位など、不透明な要素が多く介在します。ステルスマーケティングやサクラレビューへの警戒感が広がっている現状も踏まえると、生成AIとの対話は、少なくとも「その場で理由を聞き返せる」という透明性の高さがあります。「なぜこの商品を勧めるのか」を追加で尋ねれば、AIはその根拠を提示しようとします。この双方向のやり取りが可能である点が、一方的な情報発信であるSNSとの信頼度の差を生む一因と考えられます。
20代の7割活用に見る、若年層にとっての「AIは相談相手」という位置づけ
20代の約70%が購買時に生成AIを日常的に活用しているという数字は、単なる情報収集ツールとしての利用を超えている可能性を示しています。物心ついたときからスマートフォンとSNSに囲まれて育った世代にとって、チャット形式でのやり取りは友人とのコミュニケーションと地続きの体験です。生成AIに「これとこれ、どっちがいいと思う?」と尋ねる行為は、友人に相談する感覚に近く、情報源というより「相談相手」としての役割を担い始めていると捉えることができます。一方で60代の活用率が約40%にとどまっている点は、UIやインターフェースへの慣れの差だけでなく、対話形式のコミュニケーションそのものへの心理的な距離感が影響している可能性もあります。
「誤情報リスク」を認識しながらも使う、信頼と警戒の共存という矛盾
調査では、価格情報の不正確さ(24.5%)や仕様・機能情報の誤り(20.5%)、情報の古さ(15.5%)といった懸念点も同時に挙げられています。つまり消費者は、生成AIの回答に一定の不正確さがあり得ることを認識しながらも、それでもなお検索やSNSより信頼するという、一見矛盾した態度を取っていることになります。この背景には、SNSやレビューサイトに対する不信感が生成AIへの不信感を相対的に上回っている、という比較優位の構造があると考えられます。「絶対的に正確だから信頼する」のではなく「他の情報源よりはマシだから信頼する」という消極的支持である可能性があり、この点は生成AIサービスを提供する事業者にとって、情報精度の向上が今後さらに重要な差別化要因になることを示唆しています。
EC・広告業界に求められる次の一手――「人に見つけてもらう」から「AIに引用してもらう」設計へ
検索回数が34.2%減少し、サイト回遊時間も28.6%減少しているという事実は、従来型のSEOやサイト誘導型のマーケティング施策の効果が相対的に低下していく可能性を意味します。すでに一部の事業者の間では、AI概要や生成AIの回答内に自社商品の情報が引用されるよう最適化する、いわゆるAEO(Answer Engine Optimization)やLLMO(大規模言語モデル最適化)と呼ばれる取り組みが広がりつつあります。今後は、消費者が最終的にたどり着くのが自社サイトではなく生成AIとの対話の中である、という前提に立った情報設計が、EC事業者やブランドにとって重要な検討課題になっていくと考えられます。
検索・SNSの「終焉」ではなく、役割の「再分配」への移行
ここまでの数字だけを見ると、検索やSNSが生成AIに取って代わられるという印象を受けるかもしれません。しかし、生成AIの回答の多くがGoogleのAI概要のように検索結果を要約する形で提供されていることや、SNS上の口コミ自体が生成AIの学習・参照データの一部になっている実態を踏まえると、これは検索やSNSの終焉ではなく、消費者が情報にアクセスする「入り口」が変化しているという理解が近いと考えられます。検索エンジンやSNSは情報の「一次的な集積地」としての役割を保ちながら、生成AIはそれらを消費者ごとに再編集して届ける「翻訳者」あるいは「編集者」としての役割を強めている、という役割分担への移行が起きているのではないでしょうか。
まとめ
日本ダイレクトマーケティング学会と博報堂買物研究所という、調査主体もサンプル数も異なる二つの調査が、いずれも「生成AIへの信頼度がSNSやECレビューを上回る」という同じ方向性の結果を示したことは、看過できない変化です。20代の約7割が購買時に生成AIを活用し、検索回数やサイト回遊時間が減少しているという事実は、消費者の情報収集行動そのものが再編されつつあることを物語っています。一方で、価格情報の不正確さなど情報精度への懸念も根強く残っており、この「信頼と警戒の共存」という状態が今後どちらに傾いていくのかが、生成AIサービス事業者にとってもEC・マーケティング業界にとっても、注目すべき分岐点になりそうです。


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