リテールメディア市場6,066億円、セブン-イレブン出稿収益10倍の衝撃――2029年に1.3兆円へ

国内リテールメディア市場2025年6,066億円、2029年1兆3,174億円予測のグラフとセブン-イレブン出稿収益10倍の統計画像 時事ニュース
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2026年、国内の広告業界でもっとも勢いのあるキーワードのひとつが「リテールメディア」です。ECサイトや実店舗が保有する購買データやアプリ会員基盤を、企業が広告媒体として活用するこのビジネスモデルは、サードパーティCookie規制の強まりを追い風に、わずか数年で数千億円規模の市場へと成長しました。CARTA HOLDINGSとデジタルインファクトによる共同調査データによれば、2025年の国内リテールメディア市場は6,066億円に達し、2029年には1兆3,174億円まで拡大すると予測されています。本記事では、市場規模の推移とセブン-イレブンをはじめとする先行企業の具体的な取り組みを整理したうえで、なぜ今、小売企業が「メディア化」を急いでいるのか、その背景と今後の課題について独自に考察していきます。

日本のリテールメディア市場、2025年に6,066億円――4年連続2桁成長の実態

CARTA HOLDINGSとデジタルインファクトの調査によると、国内リテールメディア市場は2023年の3,625億円から2024年に4,692億円(前年比125%)、2025年には6,066億円(同129%)へと、4年連続で2桁の成長率を維持しています。この勢いが続けば、2029年には1兆3,174億円と、2025年比でおよそ2.2倍の規模に達すると予測されており、デジタル広告市場全体のなかでも突出した伸びを示す領域となっています。

内訳を見ると、2025年時点では市場全体の86%にあたる5,236億円をAmazonや楽天市場などのEC事業者が占めており、依然としてEC主導の構造であることがわかります。一方で、実店舗を持つ小売事業者の広告売上は830億円(デジタル広告620億円、デジタルサイネージ210億円)にとどまるものの、この店舗事業者領域は2023年の220億円から2025年の830億円へと約3.8倍に拡大しており、2029年には1,939億円(2025年比2.3倍)まで伸びると見込まれています。EC事業者の成長率を上回るペースで、実店舗発のリテールメディアが存在感を高めつつある点が、2026年後半の大きな注目ポイントといえます。

主戦場は店舗広告へ――セブン-イレブン「出稿収益10倍」の衝撃

実店舗発のリテールメディアを象徴する事例が、セブン-イレブン・ジャパンの取り組みです。同社は2022年9月に「リテールメディア推進部」を新設し、企画統括・広告営業・店舗メディア運用の3機能を担う体制で事業を本格化させました。全国21,000店舗以上という圧倒的な店舗網に加え、セブン-イレブンアプリの登録者数は1,900万人を突破しており、この巨大な顧客接点を武器に、約3年間で広告による収益を10倍超に伸ばし、出稿企業数も100社を超える規模まで拡大しています。

さらに2025年10月からはデジタルサイネージの本格導入を開始し、約1年半で設置店舗数を7倍に拡大、首都圏・四国の約3,700店舗で効果検証を進めています。同社のアプリ広告はリピート率7〜8割という高い継続利用を背景に、購買データの精度の高さが強みとされており、セブン&アイ・ホールディングスは2031年2月期までにリテールメディア関連事業で200億円以上の収益達成を目標に掲げています。ファミリーマートも「ファミペイ」を軸にしたデジタルサイネージや購買データ活用を進め、2030年度に関連収益400億円を目指すなど、コンビニ大手による店舗メディア争奪戦が本格化しています。

ドラッグストア業界でも成果が表れています。マツモトキヨシが展開する「Matsukiyo Ads」では、会員アプリやポイントカードのデータと広告配信を連携させることで、購買までの行動を可視化する仕組みを構築しました。実際にマンダムの「ギャツビー ボディペーパー」キャンペーンでは、広告を視聴したアプリ会員の約4%が商品を購入し、施策実施前と比べて売上が176.7%伸長したほか、アンファーの育毛剤キャンペーンでは広告配信地域と非配信地域とのあいだで売上に35%もの差が生じたと報告されています。

独自考察――リテールメディア急拡大の裏側

ここからは、これまで整理してきたデータをもとに、なぜ小売企業がこれほどまでに「メディア化」を急いでいるのか、そしてこの成長トレンドがどこまで持続可能なのかについて、独自に掘り下げて考察していきます。

Cookie規制が生んだ「一次データ」再評価の本質

サードパーティCookieの規制強化により、企業が外部から取得できるユーザー行動データは急速に縮小しています。この結果、実際に商品を購入した顧客の購買履歴という「一次データ」を自社で保有する小売企業の価値は、規制が強まるほど相対的に高まる構造になっていると考えられます。広告主であるメーカー側からすれば、Cookieに依存しない、購買と直結したターゲティング手段を確保できる小売企業のメディアは、今後ますます代替の効かない広告枠になっていく可能性があります。今回の成長データは、単なる一過性のブームではなく、広告業界全体の構造変化を映し出す動きだと捉えるべきでしょう。

EC一強から店舗奪還へ――サイネージが変える広告在庫の常識

これまでリテールメディアといえばEC事業者が中心でしたが、店舗事業者領域が2023年から2025年で約3.8倍に急拡大している点は見逃せません。背景には、デジタルサイネージという「新しい広告在庫」の登場があると考えられます。従来、実店舗の店頭広告は紙のPOPや棚札が中心で、効果測定も限定的でした。しかしデジタルサイネージであれば、配信内容を柔軟に差し替えられるうえ、購買データと連携した効果測定も可能になります。セブン-イレブンが設置店舗数をわずか1年半で7倍に増やしたスピード感は、実店舗の広告在庫が一気にデジタル化・商品化されつつある過程の象徴といえるのではないでしょうか。

マツモトキヨシ事例が示す「行動データ×広告」の費用対効果

マツモトキヨシの事例で特に注目すべきは、単なる閲覧数やクリック数ではなく、実際の購買データと結びつけて効果を可視化している点です。広告視聴者の4%が購入に至った、あるいは配信地域と非配信地域で売上に35%の差が生まれたという数値は、これまでの純広告では得づらかった「売上への貢献度」を明確に示すものです。広告主にとっては、限られたマーケティング予算をどこに投じるかという判断において、こうした購買連動型の効果データは非常に説得力が高く、テレビCMやSNS広告からリテールメディアへ予算がシフトする動きは、今後さらに加速していくと見られます。

出稿企業100社超の裏にある「代理店化」する小売企業

セブン-イレブンの出稿企業数が100社を超えたという事実は、小売企業がもはや単なる「商品を売る場所」ではなく、メーカー各社にとっての「広告代理店」としての機能を持ち始めていることを意味していると考えられます。18名体制の専門部署を設け、企画・営業・運用までを内製化する動きは、小売企業が広告事業を片手間の副業ではなく、収益の柱のひとつとして本格的に位置づけ始めた証拠といえるでしょう。今後は広告運用の専門人材の獲得競争が、小売業界とデジタル広告業界の間で活発化していく可能性があります。

中小小売・地方チェーンにとっての参入障壁とこれから訪れる淘汰

一方で、この成長がすべての小売企業に恩恵をもたらすわけではない点にも注意が必要です。セブン-イレブンやファミリーマートのような全国チェーンは、圧倒的な店舗数とアプリ会員基盤を武器にできますが、地域密着型の中小小売チェーンが同様の規模でリテールメディア事業を展開するのは容易ではありません。データ基盤の構築や専門人材の確保には相応の投資が必要であり、体力のある大手チェーンとそうでないチェーンとのあいだで、広告収益という新たな収益源を巡る格差が今後広がっていく可能性があります。将来的には、中小小売同士が共同でデータ基盤を構築する、あるいは大手プラットフォームに広告運用を委託するといった動きが出てくるのではないかと考えられます。

2029年1.3兆円予測は本当に達成可能か――楽観シナリオとリスク要因

最後に、2029年に1兆3,174億円という予測の実現可能性についても触れておきたいと思います。この予測は現在の成長率がそのまま継続することを前提にしていますが、実際にはいくつかのリスク要因も想定されます。ひとつは、広告枠の急拡大によって消費者が「広告疲れ」を起こし、アプリの利用率やサイネージへの注視率が低下する可能性です。もうひとつは、個人情報保護に関する規制がCookie規制と同様に一次データの活用そのものにも及ぶ可能性があることです。とはいえ、購買データという他に代替のきかない資産を持つ小売企業の優位性は当面揺らぎにくく、多少の下振れがあったとしても、市場全体としては拡大基調を維持する可能性が高いと考えられます。

まとめ

国内のリテールメディア市場は、2025年時点で6,066億円という規模に達し、2029年には1兆3,174億円へと拡大が見込まれる急成長分野です。これまでEC事業者が市場をけん引してきましたが、セブン-イレブンをはじめとする実店舗チェーンがデジタルサイネージやアプリを武器に猛追しており、マツモトキヨシの事例が示すように、購買データと連携した広告は従来のマス広告にはない説得力のある効果測定を実現しつつあります。サードパーティCookie規制という外部環境の変化が、小売企業の「一次データ」の価値を押し上げているという構造は当面続くと見られ、広告主・小売企業双方にとって、リテールメディアへの向き合い方は今後のマーケティング戦略を左右する重要なテーマであり続けそうです。

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